【2992】 ○ 山藤 章二 『山藤章二のブラック=アングル (1978/08 朝日新聞社) ★★★★

「●や 山藤 章二」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3077】山藤 章二 『昭和よ、
「●イラスト集」の インデックッスへ 「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(山藤 章二)

連載最初期分。複数トピックスの〈結び付け〉の力がスゴイ。この頃が一番尖がっていたかも。

山藤章二のブラック=アングル.jpg山藤章二のブラック=アングル1.jpg  山藤章二のブラック=アングル03.jpg
山藤章二のブラック=アングル』 「19歳山下、初優勝」('78年,5.20号)

 1976年から「週刊朝日」に連載されている「山藤章二のブラック=アングル」(後に「山藤章二のブラック・アングル」)の最初期にあたる'76年と'77年掲載分をまとめたものです。作者が「週刊朝日」の仕事に関わるようになったのは'72年からで、初仕事は表紙イラストだったのでですが、これが読者には不評で、'74年に終了の憂き目に。とは言え、一方で惜しむ声もあったため、巻末ページにイラストを持っていくという形で継続された途端に人気が出て、「週刊誌を裏から開かせる男」の異名をとるまでになったわけです。でも、確かにこのスタイルで行くなら巻末向きだろうなあと思います。

「週刊朝日」2020年9月18日号(連載2202回)
「山藤章二のブラック・アングル 2020年9月18日号.jpg 時事ネタで長く続けていくというのもスゴイことです。「週刊文春」連載の林真理子氏の時事エッセイ「夜ふけのなわとび」が'83年より続いていて、一昨年['19年]連載1,615回を突破し、それまで最多とされてきた「週刊新潮」の山口瞳の「男性自身」を抜いたのを機にギネス世界記録に認定申請、昨年['20年]10月に「同一雑誌におけるエッセイの最多掲載回数」としてギネス公式認定されましたが、回数だけで言うと、それよりすっと多いことになります(昨週刊文春 2021年2月11日号.jpg年['20年]9月には連載2,200回を超えた)。ただし、成人向け週刊誌連載の「漫画」も含めると、東海林さだお氏が「週刊文春」に'68年から「タンマ君」を、「週刊現代」に'69年から「サラリーマン専科」をダブルで連載していて、これが最長かと思います(東海林さだお氏は、「週刊朝日」のイラスト付きコラム「あれも食いたい これも食いたい」の連載も'87 年から続いている)。手元にある「週刊文春」2021年2月11日号の段階で「夜ふけのなわとび」が連載1,684回に対し「タンマ君」は連載2,421回となっています。連載回数で言うと、「ブラック・アングル」は「夜ふけのなわとび」を大きく上回るが、「タンマ君」にはちょと及ばないということになります。

 本書は、見開きの片側左ページに原寸版で掲載分を再現し、右ページに関連する記事ネタが載った新聞の切り抜きを配しているので、イラストの意味しているところが理解しやすくなっています。こうして見ると、2以上のトピックスを組み合わせてイラストにしているパターンが多いのが分かります。

山藤章二のブラック=アングル2.jpg山藤章二のブラック=アングル02.jpg週刊朝日 1976年8月13日.jpg 例えば、'76年分と'77年分を見て、この頃の世を騒がせた最大の出来事はロッキード事件とその中での田中角栄前首相の逮捕だったと思うのですが、'76年に武者小路実篤が死去した際、武者小路実篤がよく書いていた色紙「仲良き事は美しき哉」をパロディにして、野菜の絵をロッキード事件の主役の田中角栄、児玉誉士夫、小佐野賢治の顔に変えたりしています(4.30号)。過去の作品の中でも傑作とされるものですが、これも、ロッキード事件と武者小路実篤の死という複数トピックスの組み合わせです。この〈結び付け〉の力がスゴイなあと改めて思います。

山藤章二のブラック=アングル3.jpg '77年には、当時の環境庁長官だった石原慎太郎の舌禍問題について、研ナオコが出演した「キンチョール」(大日本除虫菊)のCM「トンデレラ、シンデレラ」にかけた絵を掲載し(5.13号)。石原慎太郎を蝿に見立て、石原蝿が暴言を吐くと研が「あっ、またまた言ッテレラ!」、石原蝿が落っこちると「あっ、慎(シン)デレラ!!」と。権力者をここまでコケにするには覚悟もいると思ますが、作者本人は「失言放言は漫画にとって絶好の材料になる」(『山藤章二のブラックアングル25年 全体重』)と語っていて、根っからこういう尖がったのが好きなのかも。

山藤章二のブラック=アングル4.jpg 同じく、'77年に井上陽水が大麻取締法違反(大麻所持)容疑で逮捕された際には、サイケデリックな井上の似顔絵を描き、当人の代表曲「心もよう」をドラッグ・ソングに改作しています(9.30号)。この人、この頃はばんばん芸能人やミュージシャンを叩いていたけれど(先に挙げた研ナオコについても、薬物違反逮捕に触れている)、最近になればなるほど毒は弱まり、とりわけ芸能ネタやミュージシャンネタは減っているのではないでしょうか(不祥事は依然として結構起きているにもかかわらず)。名を成すにつれ「絆(ほだ)し多かる人」になっちゃったのかなあ。井上陽水だって研ナオコだって今もその世界にいるわけだし。

 今も「ブラック」であり続けてはいると思いますが、この頃が一番尖がっていたかもしれないと思わせる一冊です。

■山藤章二カバーイラスト文庫
筒井 康隆『にぎやかな未来』('72年/角川文庫)/安岡 章太郎『なまけものの思想』('73年/角川文庫)/筒井 康隆『乱調文学大辞典』('75年/講談社文庫)/三田 誠広『僕って何』('80年/河出文庫)/
 にぎやかな未来 kadokawabunko.jpg ななけものの思想角川.png 乱調文学大辞典2.jpg 0僕って何 (1980年) (河出文庫).jpg

「週刊朝日」1976年8月13日号目次
週刊朝日 1976年8月13日2.jpg

【1981年文庫化[新潮文庫(『山藤章二のブラック=アングル〈1976〉』『山藤章二のブラック=アングル'77』)]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2021年2月 5日 22:06.

【2991】 ○ アンソニー・ホロヴィッツ (山田 蘭:訳) 『メインテーマは殺人』 (2019/09 創元推理文庫) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【2993】 ○ 亀倉 雄策 『亀倉雄策の直言飛行』 (2012/12 六耀社)《(1991/12 六耀社)》 ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1